2009年12月31日

Tokyo Copywriters' Street

Tokyo Copywriters' Streetは
毎週木曜日の21時20分から、TokyoFMで放送されます。
ここではその原稿と音声を掲載しています。
最近の記事以外は左サイドからお好きな番組へジャンプしてください。



下の画面をクリックしても過去の音声が聴けます。
戻るときは余白をクリックしてください。
タグ:top
posted by TCS at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | TOP| edit

2009年07月31日

7月のTokyo Copywriters' Street

7月のTokyo Copywriters' Street 放送予定

7月2日 一倉宏&片岡サチ
7月9日 小野田隆雄&久世星佳 
7月16日 神谷幸之助地曳豪
7月23日 山本高史山田辰夫
7月30日 中山佐知子大川泰樹 

ナビゲーター:青木菜な
テーマ音楽:大河内元規

*Tokyo Copywriters' Street 09ライブの原稿と音声は5月16日の日付で掲載しています
原稿へのリンクはこちらから

秋山晶
仲畑貴志
小野田隆雄
一倉宏1
一倉宏2
一倉宏 3
一倉宏4
福里真一
名雪祐平
古田彰一
岡本欣也
中村直史
高崎卓馬
山本高史
中山佐知子
タグ:予告
posted by TCS at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | NEWS| edit

2009年07月09日

小野田隆雄 09年7月9日放送

ki_0103_m.jpg

影踏み遊び

            ストーリー 小野田隆雄
              出演  久世星佳

「影踏み」という遊びが、
明治時代の初めまで、あったそうです。
月の明るい夜に集まって、
ジャンケンをして鬼を決め、
鬼になった子供が
ほかの子供たちを追いかける。
そして、影を踏まれたら、
新しい鬼になる。
この遊びでは、ひとりの影は、
ひとつしか出来ないことが、
大切な条件になります。
ガス燈も電気もなかった時代、
ほんとうの闇(やみ)が、まだ、生活のなかにあった頃、
夜の月の光にクッキリと見える影が
子供たちの心を、謎めいた興奮につつみ、
ドキドキさせたのかも知れません。

私が月明かりだけで、初めて
自分の影を見たのは、十九の夏でした。
場所は長野県の、白馬(はくば)の山の奥にある
小さな小学校の、夜の校庭でした。
いまから、もう、四十数年も、
昔のことです。当時、私は、
池袋にある私立大学の仏文科の一年生で、
人形劇のサークルに入っていました。
この人形劇サークルは、
夏休みになると、
全国に巡回公演に出かけます。
そしてその年は、長野県の白馬(はくば)の奥の
小学校に、泊りがけで行ったのでした。

その夜は、人形劇の公演が終った日の
最後の夜でした。
小学校の先生や村の助役(じょやく)さんたちに
村役場の会議室で、お別れの
パーティーをやっていただいて、
村はずれにある小学校まで、
夜(よ)も更ける頃に、帰ってきたのでした。
私たちのメンバーは、
女性が私も含めて五名、男性が七名。
この小学校の教室に昨日(きのう)の夜も、
ふとんをしいて眠りました。
そして、明日は東京に帰るのです。
最後の夜、私たちは草の茂る校庭に出て、
手をつないで円陣をつくりました。
サークルの会長が、あいさつをして、
それからみんなで歌いながら、
フォークダンスを踊りました。
なにも明かりのない校庭で、
十五夜に近い月の光を浴びながら。
強い風が吹いています。
小学校の後(うしろ)の山で、クヌギや
ヤマザクラの木がゴウゴウと
音をたてて、揺れています。
フォークダンスを踊りながら
私は地面にうつる自分の影を
みつめました。影は私と同じように、
脚をあげ、手を振り、踊っています。
そのときでした。
いつも道化役の人形を使う
二年のK君が
フォークダンスの輪を離れて、走りながら、
みんなの影を踏み始めました。
そして逃げました。誰かが彼を追いかけ、
その影を踏み返しました。
それから、フォークダンスの輪は乱れて
私たちは、おたがいの影を踏む遊びに
夢中になってしまいました。
私は、ひそかに、三年生のMさんを
追いかけました。建築学科の男性です。
でも、なかなか、その影を踏むまで、
追いつくことが出来ません。
それでも彼は、やっと私に気づいて、
走るスピードをゆるめてくれました。
私は、そっとMさんの影の、
胸のあたりを踏みました。
オー、痛イ。と彼が笑いました。

ええ、おっしゃるとおりです。
私は卒業するとすぐに、
Mと結婚しました。
それから、ずーっと、一緒です。
私が彼の影になったのか、
彼が私の影になったのか。
いまでも、月のある夜に、
ふたりで歩くこともあります。



*出演者情報久世星佳 03-5423-5904シスカンパニー 所属


shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋


タグ:
posted by TCS at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小野田隆雄| edit

2009年07月02日

一倉宏 09年7月2日放送

earthlights_dmsp.jpg

暗闇をこわがるこどもに聞かせる話

                ストーリー 一倉宏
                  出演  片岡サチ

だいじょうぶ。もうすこしここにいてあげるからね。
あと5分。そうしたらもう、あかりを消して寝ようね。

どうしてあかりを消すのか。
うーん、そうだな。夜をつけるために。
このスイッチはね、押すとあかりがついて、昼間みたいに
明るくするスイッチだけど、もういちど押すと暗くなって、
夜をつけるスイッチでもあるんだ。
そう、この部屋を、夜にするスイッチ。

夜は、たいせつだよ。
夜は暗いからきらいっていうけど、
暗くなるのもちゃんと意味があって、たいせつなんだよ。
それはね、まわってるってこと。
時間が、止まってしまわないで、動きつづけてるってこと。
夜が朝になって、昼間になって、夕方になって、夜になる。
ずっと明るい昼間だったら、パパのおしごとも終わらないで、
帰ってこられなくなっちゃうかもしれないな。

おやすみがあって、おはようがあって、
いってらっしゃいがあって、おかえりなさいがあって。
夜になって、目をつぶって、おやすみをしたら、
つぎには、ぜったいに朝がきて、目がさめて、起きるでしょ。
ぜったいそうなるから、みんな安心して眠れるの。
そのじゅんばんはね、たいせつなたいせつなお約束なんだよ。

そうやってくりかえすのは、地球がまわっているからなんだ。
ほら、遊園地に、大きな観覧車があって、ゆっくりゆっくり
まわっているでしょ。地球っていう、この大きな丸い星も、
ゆっくりゆっくりまわって、おひさまの光があたると、
明るい昼間で、影になると暗くなって、夜になるんだ。
まいにちまいにち、じゅんばんに、かわりばんこに。
そう、地球の半分は昼間で、半分は夜なんだ、いつも。

だから、だいじょうぶ。
夜がきて、朝がくるのは、ぜったいまちがえない約束だから。
安心して。大きな大きな、観覧車に乗ったつもりで。
ゆうくんも、えりちゃんも、保育園の先生たちも、
パパもママも、みんないっしょに乗って、まわってるから。
大船のおじいちゃんとおばあちゃんも、横浜の良枝おばさんも、
アメリカにいった礼二おじさんたちも、いっしょに。
それから、中国のパンダも、インドのゾウさんも、
アフリカのキリンやライオンたちも。
いっしょに乗って、ゆっくりゆっくり、まわってるから。

それじゃ、そろそろ、「おやすみ」しようね。
スイッチを押して、夜をつけるからね。

夜をつけて、暗くして、目をつぶって、寝よう。
そうすれば、しぜんに、あしたの朝が、近づいてくるよ。
寝るたびに、ほら、おじいちゃんおばあちゃんたちと
海水浴にいく日も、近づいてくるから。
その向こうには、じゃーん、お誕生日も待ってるから。

さあ、おやすみ。
夜をつけて。
目をとじて。




出演者情報:片岡サチ 03-5423-5904 シスカンパニー
posted by TCS at 21:33 | Comment(0) | TrackBack(0) | 一倉宏| edit

2009年06月25日

中山佐知子 09年6月25日放送

06224301.jpg


猫が死んでいることに気づいた日は

                
                 ストーリー 中山佐知子
                    出演 大川泰樹                   

猫が死んでいることに気づいた日は
音もなく雨が降っていて
窓の外の景色がうす青かった。
それは猫の毛の透けた縞模様を通して見えた。

死んだ猫は躰が透き通ってきて
向こう側の景色がうっすらと見えるようになっていた。
それで私は猫が死んだことを知ったのだ。

猫は死んでも窓際にきちんと正座して
私から目を離そうとはしなかった。
そうやって猫に見つめられていると奇妙な無気力状態におちいり
昼も夜もうつらうつらと
寝ているのか起きているのか区別がつかない何日かがあった。
猫はずっとそばに付き添い
昼も夜も部屋から出て行こうとしない。

あたりが暗くなって車の音が途絶えるころになると
ざわざわと風が吹いた。
猫は風の匂いを嗅ぐように鼻を上に向け
あたりの気配に耳をすました。
風は玄関と窓にかわるがわる吹きつけ
まるで誰かが押し入ろうとしているようにガタガタと音を立てた。
すると猫は、透明な毛を逆立てて威嚇するように唸るのだった。

いっぺん、窓を開けて猫を安心させようとしたのだが
起き上がろうとすると猫はさらに大きな声で
こんどは私に向かって唸った。
こんなことははじめてだった。

それから、降り続いていた雨がとうとう止んで
世界が顔を洗ったように明るくなった朝になると
猫ははじめて私に向かって口をひらいた。

「あれは雨の日だったね。」
それが猫を拾った日か猫が死んだ日かわからないまま
私はそうだと答えた。
「あれからずっと僕は幸せだったし、いまも幸せなんだ。
 きみはそれを信じてくれなきゃいけないよ。」
信じる、と答えるしかなかった。

幸せな猫だけが飼い主を助けることができるんだからね、と
猫は念を押した。
それから、背中を向けてさよならと言うと
締め切った窓を通り抜けて本当に出て行ってしまった。

猫がいなくなった部屋の隅には
出て行ったばかりの猫が、申し訳なさそうに
小さくうずくまって死んでいた。
死んだばかりの猫の躰はちっとも透明でなく、まだぬくもりがあり
縞模様の毛はやわらかく私の涙をはじいた。

私はそれに手を触れながら
死んでいたのは自分だったんだという、いま気づいたばかりの事実を
そっと心の隅にうずめた。



タグ:
posted by TCS at 00:00 | Comment(1) | TrackBack(0) | 中山佐知子| edit

2009年06月18日

小松洋支 09年6月18日放送

000195_m.jpg

そのひとのこと
                   ストーリー 小松洋支
                      出演 坂東工

ぼくがそのひとを初めて見たのは、
10月のよく晴れた日のことだった。

午後まだ早い時間だというのに、
陽の光には斜光のようなセピアがまじっていた。

ぼくはクリーニング屋とコンビニの間の細い路地を抜け、
遅い昼食をとるために、顔なじみの喫茶店に向かっているのだった。

その喫茶店のウインドウの前に、そのひとは立っていた。

何を注文するか、あらかじめ心づもりをしておくんだろうな。
そう考えて、気にもとめなかった。

ちょっと驚いたのは、
食事を終えてぼくが店の裏手から戻ってきたとき、
そのひとがまだそこに立っていたことだ。

さっきと同じ姿勢で身動きひとつせず、
もの想わしげな表情で、ピザやホットケーキやナポリタンが陳列された
ウインドウを見つめている。

やせた小柄なひとで、まっすぐな黒い髪をうしろで束ね、
化粧気のない顔は白いというより青白く、
頬骨のあたりにうすいそばかすがある。
手には少し汚れた布製のバッグを提げていて、
中からなにかのパンフレットがはみだしている。

ぼくは気がかりなものを感じて、
何度もふりかえりながらその場をあとにした。

次にぼくがそのひとを見たのは、
1週間ほどたってからのことだった。

ぼくは商店街が川と交差するあたりを歩いていた。
アーケードがそこだけ切れて、空とひくい丘が見えるのが好きだった。

ふと見ると、橋を渡ったところにある古い洋食屋の前に
誰かが立っていた。

喫茶店の前にいたひとだった。

わずかに腰をかがめ、ウインドウを一心にのぞきこんでいる。
右手の人さし指と中指を下くちびるにあてている。

近寄っていってそっと視線をたどってみると、
どうやら目玉焼きののったハンバーグを見つめているらしかった。

ぼくはなんだか胸がくるしくなった。

そのひとはぼくの気配に気づいたのか、
ちらっとこちらを見て、真剣な表情をほんの少しゆるめ、
それからまた目をウインドウに戻した。

「あの、ぼくにできることはありませんか」
そう声をかけたかったけれど、もちろんできない相談だった。

3度目にそのひとを見たとき、
そのひとは区役所のそばの建物に入っていくところだった。
白いシャツを着て、ダンボールの箱を抱えていた。

その建物には看板が出ていた。
でもぼくにはそれが読めなかった。

ずっとあとになって、公園に住んでいる長老の虎猫が
あそこでは人間たちが食品模型というものをこしらえているのだと
教えてくれた。



出演者情報:坂東工 http://blog.livedoor.jp/bandomusha/


shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋


タグ:
posted by TCS at 00:00 | Comment(1) | TrackBack(0) | 小松洋支| edit

2009年06月11日

小野田隆雄 09年6月11日放送

001827_m.jpg

わたしはネコです。

            ストーリー 小野田隆雄
              出演  久世星佳


わたしはネコです。
名前は、まだありません。
銀座八丁目、並木通りの裏通りの、
一階がお寿司屋さんで、二階から上に
バーと居酒屋さんが、
十五軒入っているゲンマンビルと
一階がイタリアンレストランで、
二階から上に、クラブと小料理屋さんが、
十一軒入っているアオイビル、そのあいだの、
せまい露地に住んでいます。

わたしは、たぶん、一歳とちょっと。
黒い毛色の女の子です。
どこかで生れて、ここに捨てられたのか、
この近所の露地に生れて、
ふらふらと道に迷って、ここに来たのか、
そのへんのことは、わかりません。
いちばん初めの記憶は、
去年の五月下旬の夜遅く、
ここの露地で、ミーミー、
鳴いていたときのことでした。

「おい、どうした、コネコ」
声をかけてくれたのは、
ゲンマンビル一階の
青葉寿司のタケさんでした。
「まあ、黒ちゃん」
そう、話しかけてくれたのは、
アオイビル三階のクラブ、
スキャンダルのナオコさんでした。
「ハラがへってるのか? 
 よしよし、魚のホネでも、 
 持ってきてやるからな」と、タケさん。
「バカだねぇ。こんなコネコに 
 魚のホネなんて。ちょっとお待ち。 
 ミルクを持ってきてあげる」と、ナオコさん。
しばらくして、タケさんが、
マスクメロンの入っていた
空(から)の木箱を、持ってきてくれました。
ナオコさんは、すこし欠けた深めのお皿に
ミルクを持ってきてくれました。

ナオコさんは、タケさんの木箱を見て
いいました。
「バカだねぇ、あんた。 
 そんな硬い木の箱、
 黒ちゃんが痛いじゃないか。
 ちょっとお待ち」
ナオコさんは、またお店に戻り、
中味のアンコを抜き取った、
古いちいさなクッションを
持ってきました。
それから、タケさんが木箱のなかに
古いクッションをしいて、
腕をのばして、露地の奥に、
その木箱を置きました。すると今度は、
ナオコさんが手をのばし、
ミルク入りのかけたお皿を、
木箱の前に置きました。そしてわたしが、
夢中になって、ミルクを飲み始めました。
そんなわたしを見ながら
ふたりが、話しているのが聞えました。
「ナオコ、今夜は、もう、あがりかい?」
「バカだねぇ、タケは。あったりまえよ」
「六本木でも、ちょっといくか?」
「いいよ。おごってあげるよ」
「ついでに、とめてくんねぇかな」
「バカだねぇ。いいよ、タケシ」

それから、わたしはこの露地に住み、
タケさんとナオコさんに
かわいがられて、とてものんきに
暮らしています。
銀座の夜は、色んなひとがいて、
わたしのことを、色んな名前で
呼んでくれます。でも、わたしは、
タケさんとナオコさんに
コネコとか、黒ちゃんとか、
呼ばれない限り、ぜったいに
返事をしません。わたしは、
ノラネコではありません。
あのおふたりに、飼われているのです。
いつか、お礼をしたいと思っています。
ドブネズミのチュウスケをつかまえて、
青葉寿司のタケさんに
プレゼントしたいと考えています。
きっと、よろこんでくれると思います。
それでは、みなさん、お元気で。



*出演者情報久世星佳 03-5423-5904シスカンパニー 所属


shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋



タグ:
posted by TCS at 00:00 | Comment(1) | TrackBack(0) | 小野田隆雄| edit

2009年06月04日

一倉宏 09年6月4日放送

001383_m.jpg

ねこ日記 〜「6月」篇

                ストーリー 一倉宏
                   出演 澤田由紀子

月曜日 くもりのち晴れ
朝起きて ごはんを食べる そのあと寝る 
昼前からすこし晴れる 日だまりを探して 寝る
昼過ぎにはお日様がいい感じ 外に出て 小川さんちの庭へ
小川さんちの庭のバラが咲いてる その匂いをかぐと
なぜかおしっこがしたくなる そして する
しばらく歩いたり休んだり それから家に帰って 寝る
今夜のごはんはかつお味 食べて寝る

火曜日 晴れ
朝起きて ごはんを食べる いいあくびが出た
きょうのお日様は90点 光も温度もちょうどいいお日かげん
外に出て クルマの上で寝る クルマを降りて
小川さんちから 藤井さん 石岡さんちの庭をひとまわり
その途中で クリーニング屋のチャビに会う
あいかわらず 遠くから挑戦的な目で にらみつけやがる 
にらみかえして チャビが消えるのを確認して
家に帰り ごはんを食べて 寝る
冷蔵庫の上で寝る 今夜も刺身なし 顔を洗って寝る

水曜日 くもりのち雨
そろそろ 憂鬱な季節だ 朝起きて 寝る
ごはんを食べて 寝る お日様は顔を出さず ちょっと肌寒い
そして 雨が降りはじめる 念のため外に出たが やはり雨だ
今夜のごはんもかつお味 今夜も刺身なし 寝る

木曜日 雨
「4月は残酷な月」と 人間の詩人はいったらしいが
6月こそ残酷な月だ ねこにとっては
どんなに寒い冬も コタツという楽園があるのだ ねこ様には
6月にコタツはない この頃はテレビにものれない 薄すぎて
あきらめて寝る あくびがとまらない 食べて寝る

金曜日 雨
きょうも雨 朝起きて 食べて寝る
ブラッシングしてもらう ピンポン玉ほど毛が抜ける
でも 気持ちいい すこし気分もよくなった 出窓で寝る
たわむれに ニセモノのねずみをもてあそぶ すぐ飽きて寝る
今夜のごはんはまぐろ味しらす入り 食べて寝る

土曜日 くもりときどき雨
我慢できずに 外に出てみる 案の定 また降られる
6月は最も残酷な月だ 4月ではなく ねこたちには常識だ
4月といったエリオットという詩人は あのミュージカル
「CATS」の原作者だというではないか どこまでもふざけた野郎だ
それとも 海の向こうは 4月にいちばん雨が降るのか?
コタツはないのか? われわれはぁー コタツを要求するぅー
さもなくば 押し入れを開放せよ! こんどのねこ集会で
呼びかけよう 三多摩地区ねこ組合 団結せよ!

日曜日 晴れ
ひさしぶりのお日様だ 朝起きて 寝る
クルマの上で寝る 塀の上で寝る 小川さんちの庭で用をたして
チャビをシカトして 家のリビングで寝る 冷蔵庫の上で寝る
おまけに 今夜のごはんは ほんもののお刺身!
解凍のぶつぎりでも ほんものはほんもの!
満足して しあわせに寝る きのうのことはとっくに忘れて 寝る




出演者情報:澤田由紀子 ナイロン100℃ http://www.sillywalk.com/nylon/index.html

タグ:
posted by TCS at 00:00 | Comment(1) | TrackBack(0) | 一倉宏| edit

2009年05月28日

中山佐知子 09年5月28日放送

boug34.jpg

できれば土に
                
                 ストーリー 中山佐知子
                    出演 大川泰樹
                 

できれば土に埋もれたいと思っている。
壁になりたいと思っている。
できれば息もしたくないけれど
小さな女の子だからどうしてもため息はでてしまう。

なれるものなら透明人間になりたいと思っている。
でも、小さな女の子だから
もとにもどる方法がわからない。

本当は何もしゃべりたくない。
石だから、壁だから、土なのだから。
しゃべろうとすると泣いてしまうから。

心が重くなって固くなって
びしょ濡れになって寒くなって
笑えなくなって、しゃべれなくなって
臆病になって
自分がここにいてもいいのかいけないのか。

みんなの視線と言葉がきっと針のように痛いけど
泣きそうな自分を隠しておくために
凍りついた目を大きく開いている。

どうしてそうなってしまったのか
どうして自分がいまそうなのか
きっかけは5分前でも、
原因は100億光年も彼方にあるから。
どうしてもわからない、わかりたくない。

泣かない小さな女の子はいつもそうして震えている。

年を取った大人はそれを見て
拗ねているとひと言で片付けてしまうけれど
そういう自分の心のなかにも
きっと泣かない小さな女の子がいて
誰にも気づいてもらえないまま凍っている。

誰の心のなかにも泣かない小さな女の子はきっといる。

僕は、そんな小さな女の子の手を取って
あたたかい場所へ連れ出すことのできる
小さな男の子になりたいと思う。




出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 03-3478-3780 MMP

タグ:再生
posted by TCS at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 中山佐知子| edit

2009年05月21日

細川美和子 09年5月21日放送

282384main_image_1193_1024-768.jpg

世界で一番長い日
              ストーリー 細川美和子
                 出演 光野貴子

世界で一番長い日、
それはいつだと思う?

世界で一番、顔もみたくないようなケンカをした日?
世界で一番、あっけないくらいカンタンに仲直りできた日?
世界で一番、鳴ってほしい電話が鳴った日?
世界で一番、鳴ってほしい電話が鳴らなかった日?


世界で一番、生きていてよかったと思った日?
世界で一番、消えてなくなりたいと思った日?
世界で一番、願っていた願いが叶った日?
世界で一番、願っていた願いが叶わなかった日?

世界で一番長い日 
それは、いつだって今日なんだ
地球の自転は100年に0.002秒ずつ
遅くなっているらしいから

今日がそう
いつだって世界で一番長い日
だから毎日
わたしたちは終わりから遠ざかっているんだ
太陽のまわりをぐるぐるとまわりながら

だとしたら
あんなふうにあせることはなかったのかもしれない

終わりの予感に追いかけられて
あんなふうに不安になることも
さびしくなることも、問いつめることも
くらべることも

あんなことばで
傷つけることも、傷つけられることも

だとしたら
世界で一番長いその日に
もう一度わたしはあなたに会いたい

そしていつか
ずっとずっとずっと未来に
夕陽がずっと沈まない日がくるとき
わたしはきっと過去から自由になって
ずっとずっとずっと未来に

夜がずっと
終わらない日がくるとき
わたしはきっと未来から自由になって
ずっとずっとずっと未来に

朝がずっとこない日がくるとき
わたしはきっと
わたしから自由になって

世界で一番長いその日に
だれよりわたしは
あなたに会いたい




出演者情報:光野貴子 03-5571-0038大沢事務所


shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋




タグ:再生
posted by TCS at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 細川美和子| edit

2009年05月16日

中山佐知子 09年5月16日ライブ

クリップ 29.jpg

夕暮れになると海から

                 ストーリー 中山佐知子
                    出演 大川泰樹

夕暮れになると海から霧が流れてきます。
飛行場の視界は10メートルもなく
5月だというのに冷たい風も吹いていました。

けれども
飛行機の、風防ガラスの窓の外は素晴らしい夕日です。
高度100メートルで霧の上に出て
600メートルで雨雲も突き抜け
青空に向かってぐんぐん飛んでいきます。
だから、空は自分のふるさとだ
いつもそう思っていました。

左90度に標的をとらえ
2000メートルの高さから左に旋回しながら急降下し
距離1000メートル、
高度100メートルで魚雷を発射する。

実戦の訓練がはじまったとき
高度100メートルはあの霧の高さだと思い出しました。
霧は地上に属するものだから
青空がふと遠ざかった気がしました。
それなのにさらに低空飛行をめざすのは
魚雷の命中率を上げるためでした。

プロペラの風圧で海面に飛沫が上がるときは
高度10メートルもない危険なところを飛んでいます。
食らいつく海をなだめながら魚雷を発射し
炎上する敵の船を飛び越えて
はるか高みに舞い上がる...
海面すれすれの低さに身構えるのは
あの青空にもどるためのたったひとつの手段であり
青空をめざす姿勢のはずだったのに。

いま、自分の頭上に青空はなく闇があります。
足元も暗い海です。

自分が乗っているのは
250キロの爆弾をふたつ抱えた
白菊という名の練習機。
海軍航空隊の飛行機には違いありませんが
偵察や無線の訓練のための
スピードの出ない飛行機です。

敵と遭遇しても戦うことも逃げることもできない
爆弾を投下した後も青空に舞い上がれない
かわいそうな飛行機は
夜の海をよたよたと這うように飛んで敵に接近し
爆弾を抱いたまま突撃するしか攻撃の手段がありません。

夜の海を5時間も飛ぶと、夜明け前には沖縄に到達します。
運良く敵の戦艦に近づいて突撃できたら
僕は飛行機からも自分のカラダからも自由になって
きっとあの青空にかえっていくでしょう。

昭和20年5月24日
白菊特攻隊




出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 03-3478-3780 MMP

posted by TCS at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 中山佐知子| edit

山本高史 09年5月16日ライブ

globeAndBell.jpg

人生相談 
                   ストーリー 山本高史
                      出演 大川泰樹

吉田、といいます。
仕事は、人生相談やってます。

始めてから20年、なにぶん上のつかえてる業界ですので、
この歳にしてようやく中堅かなあ、という感じです。
時節柄、って言うんでしょうか、ここに来て相談件数は増えてます。
不況知らずと言うか、むしろ不況様様と言うか、よくよく因果な業界ですね。
ありがたいことです。
とは言え、相談が増えれば相談も玉石混交、
前もって連絡いただければ「相談ハンドブック」をお配りして、
「問わずとも思わず答えたくなる相談の秘訣」、などの
アドバイスも差し上げているのですが、
最近は相談のイロハ、も知らない飛び込みのお客様が多い。
いちばん困るのは、
「かくかくしかじか、で、私はどうしたらいいんでしょう?」ってやつ。
こういう人たちは、私が「こうしたらいい」、と言ったら、そうするんですかね。
万が一そうだとするのなら、それは相談、じゃないですよね。
それは日本語で、依存、と言います。
依存は、業務外です。
私の仕事は相談です。
AかB、せめてAかBかCくらいにまで詰めてから先が、相談、
じゃないでしょうか。

ハイ次。
「夫に若い愛人がいるようなのですが、別れた方がいいのでしょうか?48歳主婦」
これは「若い」、というところがポイントですね。
「年上の愛人」、というのは、あまり聞かない。
うちに持ち込まれる案件でも、十中八,九「若い愛人」です。
その「若い愛人」は、若い男ではなく中年男を選択している。

文面だけを眺めていれば、なんかね、
「不倫は文化だ」的なニュアンスがあるんですが、
実際にはメタボ薄毛オヤジだったりするわけですよ。
にもかかわらず「若い愛人」は、
そのメタボ薄毛オヤジの「若い愛人」を喜々としてやっている。
あれがどうにも、わからない。
「若い愛人」の心中推し測りがたし、が私の回答です。

ハイ次。
「私には大きな夢があります。
 その夢の実現に向けて会社を辞めるべきかどうか迷っています」
この相談者、明らかに自分に酔っています。
「迷っている」という言葉でわかります。
迷っている自分が、好きで好きでしょうがない。
そんな、大好きな迷っている自分のことを、人に聞いて欲しいだけ。
迷いマニア、ですね。迷イズム、もいいかもしれない。
とにかく、迷わないとやってられないのか、生きてる感じがしないのか。
まあせいぜい、大いに迷ってください。
そして迷わなくなったら、また相談してください。

ハイ次。
「親友とケンカをして、絶交してしまいました。
どうすれば元通りになれるでしょうか?」
・・・ほんとうに親友?
よく考えて。
ほんとうに親友だった?親友って、なに?親友なのかしら?
いつ決めた?親友だって、いつ決めた?
それ、親友と呼ぶのかしら。 呼ぶべきかしら、とあなたに聞いてるの。
あなた、他にも友達、いるでしょ?いるよね。
つまり、「友達うちの一人と、ケンカをしてしまいました」ってことでしょ?
そんなこと、相談するべきことかなあ。

ハイ次。
「子供をつくるなら、男女どちらがいいですか?」
こういう質問、好き。カンタンに答えが出るから。
カンタンに答えが出ると、こっちも気持ちいいし、
質問する側もスッキリするでしょう?
答え、女。

ハイ次。
「クルマにはねられて入院してから、3カ月になります。
 その間に勤めていた会社が倒産し、
 家計を助けようと無理してパート勤めを掛け持ちした妻が過労で倒れました。
 娘は外によくない友達ができたらしく、家に寄り付かなくなっているそうです。
私の退院の見込みも立たず・・・(てんてんてん)エトセトラエトセトラ」
長い!

ハイ次。
「隣人トラブルに悩んでいます」
左隣?右隣?
それを書いて、もう一回、よろしく。
ハイ次。



出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 03-3478-3780 MMP

posted by TCS at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 山本高史| edit

一倉宏 09年5月16日ライブ

P5290115.jpg

せつないオカザキくん
                    ストーリー 一倉宏
                       出演 西尾まり 

会いに来てくれてありがとう オカザキくん と 私はいった
なんだかせつなくなっちゃったよ オカザキくん

そう私がためいきをついても 絶対に誤解しないところが 彼のいいところだ
こうしてふたりだけで会うなんて たしか3年ぶりのこと
そして もう2度とはないのだろうと思う 私は結婚するから

幼なじみ ともだちよりは もうすこし男性として意識して
けれど 恋人であったことは一度もなかった オカザキくん

3年前 私が手痛い失恋をして お粥さえすする気力をなくしていたとき
たまたま ごく平凡な用件で電話してきたので 私から会おうよと誘い
そうしたら 煙がモウモウの焼き肉屋に連れていってくれた オカザキくん
あの店のタン塩とミノはたしかにおいしかったけれど 煙が目にしみた

ばかだなあ オカザキくん けれど 私は知ってる
あなたは鈍感なんじゃなくて 敏感すぎるから かんじんな話題を避けたこと 
炭火焼き肉の煙と 忘れていた中学時代の笑い話で 私は涙をこぼした
なんだ あいかわらずで安心したよといった オカザキくん
あの日 私はなぜだかヒールの高いサンダルを履いてきてしまい
帰り道 2回もよろけて右側から支えてもらい
3回目につまづいた後には 左側からしっかり腕を抱えてくれて
けれど 決して手は握らなかった オカザキくん

あれから3年 どこから聞いたのか
結婚を決め 仕事をいったん辞めて 郊外の実家に戻った私を 訪ねて来てくれた
結婚する彼氏の話を 多すぎず少なすぎずすると 思ったとおり 
よかったね うまくいくよと 多すぎず少なすぎず うなずいてくれて
私は そのオカザキくんの いい加減でも大げさでもない祝福のしかたが
静かにうれしくて そして ちょっぴりせつなかったのだ

上り電車で帰るオカザキくんと 店を出て歩きはじめた
生まれ育った街だから 神社の参道を抜けると近道だということを知ってる
ここでもういいよというオカザキくんに 駅まで見送るよと付いていった
照明も人通りも少ない道だけど べつに近道以外の意味があるはずもない
両親も元気 兄妹も元気 みたいな話をして歩くだけだった

すると オカザキくんは せっかくだからお参りしていこうと言い出し
拝殿の階段をのぼって お賽銭を投げ 手を合わせた
突然のことに戸惑いながら 私もそれにならった

どうしてなんだろう そして オカザキくんは何を祈ったのだろう
まさか 私のことを? 私の結婚のことを?
だとしたら いいひとすぎるよ せつなすぎるよ オカザキくん

それから 急ぎ足で駅まで向かい 改札を通って一度だけ振り返り 
消えていった後ろ姿の 一度も恋人ではなかった オカザキくん

ありがとう さようなら



*出演者情報 西尾まり  03-5423-5904 シスカンパニー

posted by TCS at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 一倉宏| edit

岡本欣也 09年5月16日ライブ

camel2.jpg

職のない日々
             ストーリー 岡本欣也
                出演 大川泰樹

むかし、ぼくは、無職だった。

むろん貧乏だったが、
不自由は感じなかった。

電気を止められた時、
ぼくはローソクをともした。

ガスを止められた時、
近所の銭湯に行った。

電話を止められた時、
好きだった子に手紙を書いた。

そして水道を止められた時、
生まれて初めて、
野グソをした。

雑木林でお尻を出していたぼくは、
25歳だった。

貧乏はおもしろい、
とまでは言わないが、
人が思うほどみじめではない。

すくなくとも、
いま巷で語られるほど、
一面的な暮らしではないと思う。



出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 03-3478-3780 MMP

posted by TCS at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 岡本欣也| edit

高崎卓馬 09年5月16日ライブ

wheatAgainstSky.jpg

おばあちゃんへの手紙
                   ストーリー 高崎卓馬
                      出演 西尾まり 


おばあちゃんが死んだ日に
おじいちゃんはそのことがよくわからなかった
おばあちゃんを送る日に
おじいちゃんはずっと新聞を読んでいた
お線香の匂いが 
冬の朝を包んでも
お経が流れても
おじいちゃんはずっと新聞を読んでいた

「おじいちゃんそれ昨日の新聞だよ」

おじいちゃんはいろんなことがわからなくなっていた

おばあちゃんとおじいちゃんは
そんなに仲が良くなかったようだった。
おじいちゃんは、ほんとうのおじいちゃんじゃなかった。
戸籍上の話。
戦争で死んだ本当のおじいちゃんの弟が、おじいちゃんだった。
昔は珍しくない再婚話。

おじいちゃんとおばあちゃんは、
どこかで線をひいていっしょに暮らしていた
孫の僕にだってわかるような境界線。

ふたりに子供がいなかったせいかもしれない

おじいちゃんはおばあちゃんを好きだったのかな
おばあちゃんはおじいちゃんを好きだったのかな


お経を聞きながら、僕はふたりを可哀想におもった。
「たくちゃん、これ何時に終わる?」
おじいちゃんは僕にお葬式の終わる時間を何度も何度も聞いてきた。
「たくちゃん、これ何時に終わる?」
何十年も一緒に暮らしたひとがいなくなった日のことが
わからなくなったおじいちゃん。
「たくちゃん、これ何時に終わる?」
おじいちゃん、お葬式のことをこれって言わないで
お願いそんな質問しないで
ずっとずっと新聞を読んでいていいから
誰か他のひとに聞いて
「たくちゃん、これ何時に終わる?」

すべてが終わって
食事が出てきた頃
僕はおじいちゃんがすこし嫌いになっていた。
「おじいちゃん、先に帰って寝てる?」
それは優しさとかじゃなくて
もういちど僕がそういったとき
僕の目の前で、
おじいちゃんが突然泣き出した
ちいさな肩がちいさくちいさく揺れて
使い古された咽がひゅーひゅーなって
しわしわの頬に涙がたくさん枝別れして



おじいちゃんはたぶん、
おばあちゃんがすごく好きだったんだ

よかったね、おばあちゃん



*出演者情報 西尾まり  03-5423-5904 シスカンパニー

posted by TCS at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 高崎卓馬| edit

中村直史 09年5月16日ライブ

DSCF3986.jpg

   隣人を愛そう
             ストーリー 中村直史
                出演 大川泰樹坂東工西尾まり 


  隣人を愛そう
  ニンジンを愛そう
  ニンジャを愛そう
  大蛇を愛そう
  大ちゃんを愛そう
  大ちゃんならああ言いそう
  第3者機関ならこう言いそう
  第3舞台ならそれやりそう
  退散するのは難しそう
  解散するのは予算成立後
  発散するのは与謝野晶子
  ハッサンはアブドルの弟
  母さんはアイドルの卵

  愛がどこに消えてしまおうと
  まずは愛してみよう

  隣人を愛そう
  思いがけない世界のために





posted by TCS at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 中村直史| edit

一倉宏 09年5月16日ライブ

st-anne[1]1.jpg

ハローとグッバイの間に

             ストーリー 一倉宏
                出演  坂東工

あなたと僕がはじめて出会ったのは 僕の誕生日でしたね

ほんとうのことをいえば 僕は よく憶えていないのだけれど
あなたは くりかえし 話してくれた
その朝の 空の青さ 風の匂い 緑の眩しさまで

その日から 僕には なにもかもはじめてのことばかり

あなたとの出会いは 人生でいちばん大きな 運命だと思う
ほかの誰でもありえなかった この世界でただひとり
絶対の運命 といえる女性は ほかにいない

あなたが僕を見つめるたびに 僕はしあわせを憶えた

あのころの僕は わがままなほど あなたを独占しましたね
それを許して 厭いもせず いつも笑顔で
あなたを なにかに喩えるなら 太陽というほかにない

あなたが僕にくれたのは 生きるよろこび そのもの

僕はいつも 叫びたいほどの気持ちだった
目覚めればそこに あなたがいるしあわせ
いない夜のかなしみ そして その肌のぬくもりも

あなたなしでは生きてゆけない 僕だったから

それはなんの大袈裟でもなく あなたについて思ったこと
いつか 壊れるほどに泣いた日を 憶えています
その胸に委ねた この僕の小ささ 悲しそうなあなたの顔

あなたの教えてくれたこと 僕はいつまでも忘れない

美しい歌 心をこめたことば この世界の歩き方
ごはんのおいしさも 読書のたのしさも
そして 誰かを傷つけること 自分の弱さと過ちについて 
  
あなたに会えてよかった あなたがいてよかった

あなたとの出会いは 人生でいちばん大きな 運命に違いない
ほかの誰でもありえなかった この世界でただひとり
あなたがいなければ この僕はいなかった


おかあさん


あなたとの別れのときが とうとう来てしまいました
怖くて想像できなかった別れが ついに
想像しても 覚悟をしても 実感できない別れが

あなたとのさよならは 凍るような夜の果て

ながらく むずかしい病と闘っていたあなたは
突然のように力尽き 戻れない橋を渡っていった
搬送する救急隊の 後を追って走るあいだに
あなたの帰りたかった故郷の街が 天の川のように見えました

さようなら おかあさん 

あなたと僕がはじめて出会ったのは 僕の誕生日でしたね

ほんとうのことをいえば 僕は よく憶えていないのだけれど
あなたは くりかえし 話してくれた
その朝の 空の青さ 風の匂い 緑の眩しさ
その愛の はじまりを



出演者情報:坂東工 http://blog.livedoor.jp/bandomusha/


posted by TCS at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 一倉宏| edit

古田彰一 09年5月16日ライブ

02.jpg

VOICE LOVE.
              ストーリー 古田彰一
                 出演 西尾まり


オバマ大統領って、声がいいから
大統領になれたのだと思う。

スピーチの中身はよく覚えていないけど、
そのハリのある声を聴いたとき、
私はオバマさんを支持してしまった。

そう。私はいつもそう。
声で、人を好きになる。

「あ、ごめんなさい。間違えました。」
いつも間違い電話をかけてくる男の人。
タイプの声だった。
白馬の王子様の声って、こんな声なんだと思った。

「あ、ごめんなさい。間違えました。」
いつのまにか、間違い電話を心待ちにしている私がいた。
そう、私は、恋に落ちていた。
ていうか、声に墜ちていた。

「あ、ごめんなさい。間違えました。」
いつもの短い台詞。もっと彼の声が聴きたいのに。
違う言葉を聞いてみたいのに。

チャンスは、相手のミスで訪れた。
今日に限って、彼は発信者表示を残した。
彼の電話番号。ここに折り返すだけでいい。

でも、なんて言えばいいの?
彼と同じく「あ、ごめんなさい。間違えました。」とか?
それじゃ話が広がらないし、
下手したらこれきりになっちゃうし。

ケータイを握りしめたまま固まっていると、
とつぜん着信音が鳴った。彼からだった。

「あ、ごめんなさい。いつも間違えてごめんなさい。
でも、どうしてもあなたの声が聴きたくて…」

波長ぴったりの、
声人(こえびと)ができました。



*出演者情報 西尾まり  03-5423-5904 シスカンパニー

posted by TCS at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 古田彰一| edit

名雪祐平 09年5月16日ライブ

margarita-drink.jpg

バーならず者   
              ストーリー 名雪祐平
                出演  坂東工

バーならず者は、マンションの一室を改造した、夜の隠れ家。
中年のマスターは、ゲイで、常連からは「ママ」と呼ばれている。

でも、いちばんの特徴は、このバーが
僕の事務所のすぐ隣りにある、ということだ。

ある8月の、湿気がきつい熱帯夜。

ピン、ポーン。
オートロックになっているマンションの入口から、
誰かが、僕の事務所を呼び出した。

壁の受話器を取る。
「はい」

小さなモニター画面を見ると、女が一人、ゆらゆら映っていた。
女の喉頸から顔が、アップになる。

「ならず者? ねえ、ならず者、ですか?」
酔って甘えるような、その声を聞いて、ようやく気づいた。
女は、女優のM.Nだった。

「ママ? あけて、おねがい」
僕は、すこしためらってから、
「大丈夫。いま開けるから」
とだけ言って、ロックをはずすスイッチを、押した。



出演者情報:坂東工 http://blog.livedoor.jp/bandomusha/

posted by TCS at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 名雪祐平| edit

木星からのメールが届くころには ライブ版

一倉.jpg

 木星からのメールが届く頃には
                    ストーリー 一倉宏
                       出演 大川泰樹西尾まり


 僕たちの船が旅立ってから ずいぶん長い時がたちました
 それ以上に いまの君と僕との距離は 気が遠くなるほどです

 まだ火星のあたりにいた頃は まいにちメールしましたね
 僕たちは 人類史上いちばんの長距離恋愛だ と笑って

 ときどき 
 地球のなんでもないことを 懐かしく思い出します
 たとえば 風です
 木立やカーテンを揺らしたり 
 頬や髪 からだで感じる あの風
 雨の降り出す前ぶれの かすかに湿った風の匂い
 はじめて半袖のシャツにした朝の 風の肌ざわり
 寒がりの僕があんなに悪態をついてた
 刃のような木枯らしでさえ いまは懐かしい
 春のある日 公園で あなたの前髪を揺らした
 そよ風ならば よけいに

 僕たちの乗った宇宙船では 風を感じることはなく
 ただ 二酸化炭素を吸収して 酸素を補給する空気が
 ダクトから しずかに流れるだけです 
 
 個人専用のハードディスクに 図書館ひとつぶんも
 貯め込んできた本も それから映画も 音楽も
 なんだかもう 飽きてきてしまいました
 それにくらべて カプセルの窓から見える宇宙は
 まいにちでも見飽きない美しさです
 あなたに見せたかった
 ひとつひとつの星が どんなにちいさく見えても
 ちゃんとそこにある それぞれに光ってる
 なんていうのか 宇宙を実際に見ていると 信じられる 
 宇宙という存在が はっきりとある そのすべてが

 ああ なんて伝えたらいいのか わかりません
 だからやっぱり 美しい としかいえない
 あなたの好きだった星 シリウスは手の届きそうなほど
 僕の好きな星 アルデバランも ほら そこにある


 木星に近づく頃にもらった あのメールは
 たしかに僕を驚かせ どうしようもなく悲しませたけれど
 いまは すべてを理解できると思っています
 宇宙のみごとなパノラマ以外は なんにもないここで
 まいにちまいにち同じように流れる この時間でさえ
 それは 気の遠くなるような長さだったのだから

 一日一日の 太陽が沈み 月が浮かび
 風が違い 光が違い 雲が動き 色が変わり
 日付けが変わり 季節が変わり 街のショウウインドウが変わり
 春が去り 夏にめぐり会い 秋を感じて 冬を迎え
 さまざまなひとに会い 数えきれないエピソードがあり
 まいにちまいにちが 目のまわるほどに動く
 その 地球の日々で あなたが
 どんなにどんなに 長い時間を過ごしたのか ということを
  
 だからいまは 理解できました
 ごめんなさいを 言わなければならないのは 僕のほうだった
 あまりに遠く あまりに長すぎる この旅に出た
 
 そろそろ木星も遠ざかる航路に就きました
 僕の撮った 木星の写真を送ります
 射手座生まれのあなたには 幸運の星だから


 どうぞお元気で みなさんによろしく
 それから 

 結婚おめでとう 



出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 03-3478-3780 MMP
      西尾まり 03-5423-5904 シスカンパニー


posted by TCS at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 一倉宏| edit